「正座をしようとすると膝が痛い」
「途中までは曲がるけど、最後がどうしても無理」
変形性膝関節症の方に非常に多い悩みです。
しかし、この“正座ができない”という現象は、単純に軟骨がすり減っているから起きているわけではありません。
正座では膝関節が最大屈曲域(約150度前後)まで曲がります。
この深い屈曲では、平地歩行とはまったく異なる力学が働きます。
- 関節面の接触部位が後方へ移動
- 半月板が強く圧迫される
- 膝蓋大腿関節圧が急上昇
- 関節内圧が増加
つまり正座は、
膝にとって“高圧縮・高屈曲”の動作
なのです。
第1章:なぜ正座では膝の奥が痛むのか?
正座で痛む部位は、
- 膝の内側
- 膝のお皿の奥
- 膝の裏側
と人によって異なります。
しかし共通しているのは、
深屈曲で関節内圧が急上昇すること
です。
変形性膝関節症では関節裂隙が狭くなっています。
そこへさらに強い屈曲が加わると、
- 内側コンパートメントへの圧縮集中
- 滑膜の挟み込み
- 半月板へのストレス
が発生します。
その結果、
“最後まで曲げた瞬間にズキッとする”
という症状が出るのです。
第2章:軟骨のすり減りだけでは説明できない理由
変形性膝関節症と診断されると、
「軟骨がすり減っているから正座ができない」と説明されることが多いでしょう。
しかし、ここに大きな誤解があります。
軟骨自体には神経がありません。
つまり、軟骨がすり減っているだけでは“痛み”は出ません。
では何が痛みを出しているのでしょうか。
■ 痛みの発生源は「滑膜」と「関節包」
膝関節の内部には、滑膜という膜が存在します。
この滑膜は、非常に痛みに敏感な組織です。
正座のような深い屈曲では、
- 関節内圧が急上昇
- 滑膜が圧迫される
- 滑膜ヒダが挟み込まれる
という現象が起きます。
これが「膝の奥がズキッとする」痛みの正体です。
■ 半月板へのストレス
正座では半月板が後方へ押し出されます。
変形性膝関節症では、
- 半月板の変性
- 後角部への圧縮増加
- 可動性の低下
が起きやすくなっています。
そのため、最大屈曲で
半月板が強く押しつぶされる感覚
が生まれます。
■ 関節内圧の問題
正座の姿勢では、関節内圧が大きく上昇します。
関節裂隙が狭くなっている状態では、この圧が逃げにくく、
- 骨同士が近づく
- 軟部組織が挟まれる
- 神経終末が刺激される
という流れになります。
■ なぜ“最後の数センチ”が特に痛いのか
途中までは曲がるのに、最後だけ痛い。
これは、
関節面の接触位置が急に変わるから
です。
膝は深屈曲になるほど、接触部位が後方へ移動します。
変形している部位と接触した瞬間に、痛みが出ます。
つまり正座ができないのは、
軟骨がゼロだからではなく、深屈曲時の圧力分布が崩れているから
なのです。
第3章:正座で「膝の内側」が痛む人の構造的特徴
正座で特に多いのが、
膝の内側がズキッと痛むという訴えです。
これは単なる“変形しているから”ではありません。
正座で内側が痛む人には、共通する構造的特徴があります。
■ 特徴①:股関節が硬い
正座は膝の動きだけで完成する姿勢ではありません。
股関節の
- 屈曲
- 内旋
- 外旋
が適切に働くことで、膝への負担は分散されます。
しかし股関節が硬いと、
曲がらない分を膝が代償する
形になります。
その結果、内側関節面への圧縮が増加します。
■ 特徴②:足部が内側へ崩れている
足部が過回内(踵が内側へ倒れる)状態だと、
- 脛骨が内旋
- 大腿骨も内旋
- 膝が内側へ寄る(ニーイン)
という連鎖が起きます。
この状態で深く曲げると、
内側半月板と内側軟骨に圧縮+ねじれストレス
が集中します。
■ 特徴③:骨盤が後傾している
骨盤が後ろへ倒れていると、
- 股関節が十分に折れない
- 太ももが内側へ入りやすい
- 膝に回旋ストレスが加わる
という状態になります。
正座では体重が後方へ移動します。
骨盤後傾があると、
内側に体重が流れやすい
のです。
■ 内側痛は「結果」である
正座で内側が痛むのは、
内側に負担が集まる構造になっているから
です。
膝そのものを揉んでも、湿布を貼っても、
この構造が変わらなければ再現します。
内側痛は、足・股関節・骨盤の連鎖の結果なのです。
第4章:膝のお皿の奥が痛むのはなぜ?膝蓋大腿関節の圧力問題
正座でよく聞くもう一つの訴えが、
「膝のお皿の奥が痛い」
というものです。
この痛みの主役は、膝蓋大腿関節(しつがいだいたいかんせつ)です。
■ 正座では膝蓋大腿関節圧が急上昇する
膝を深く曲げるほど、膝蓋骨(お皿)は大腿骨に強く押し付けられます。
屈曲角度が深くなると、
- 接触面積は増えるが
- 単位面積あたりの圧力も増加する
という状態になります。
特に120度を超える深屈曲では、
膝蓋大腿関節圧は体重の数倍に達すると報告されています。
変形性膝関節症では軟部組織の柔軟性が低下しているため、この圧に耐えにくくなります。
■ 大腿四頭筋の緊張が痛みを増幅する
正座の直前や立ち上がり動作では、前もも(大腿四頭筋)が強く働きます。
この筋肉が硬く緊張していると、
- 膝蓋骨が上方へ引き上げられる
- トラッキング(滑走軌道)が乱れる
- 一部に圧が集中する
という現象が起きます。
結果として、
お皿の奥に鈍く重い痛み
が出ます。
■ 膝蓋骨の可動性低下も関与する
変形性膝関節症では、
- 滑膜の肥厚
- 関節包の拘縮
- 軟部組織の癒着
が起きやすくなります。
これにより膝蓋骨の滑走が制限されると、深屈曲で
強い摩擦ストレス
が発生します。
■ 「曲げきれない」のは防御反応でもある
膝のお皿の奥が痛む方は、無意識にそれ以上曲げないようにします。
これは身体の防御反応です。
しかしこの状態が続くと、
- 可動域がさらに減少
- 筋バランスが崩れる
- 正座どころかしゃがみ動作も困難
という悪循環に入ります。
つまり、お皿の奥の痛みは
圧力×筋緊張×滑走不全
の掛け算で生まれているのです。
第5章:正座で「膝の裏が詰まる・突っ張る」本当の理由
正座でよくあるもう一つの訴えが、
「膝の裏が詰まる感じがする」
「裏側が突っ張ってそれ以上曲がらない」
という症状です。
この違和感は、単なる筋肉の硬さだけではありません。
■ 深屈曲では「後方組織」が圧縮される
膝を深く曲げると、関節の後方では次のような変化が起こります。
- 後方関節包が圧縮される
- 半月板後角が押し込まれる
- 脂肪体が挟み込まれる
変形性膝関節症では、
- 後方関節包が硬くなっている
- 滑膜が肥厚している
- 関節内スペースが狭くなっている
ことが多いため、
“物理的に詰まる感覚”
が出やすくなります。
■ ハムストリングの短縮も影響する
膝裏の筋肉(ハムストリング)が硬いと、
- 脛骨の後方移動が制限される
- 屈曲時に強い張力がかかる
という状態になります。
このとき、
「筋肉の突っ張り」と「関節の圧迫」が同時に起きる
ため、違和感が増幅します。
■ 関節内圧の上昇と血流変化
正座では、関節内圧が上昇します。
さらに長時間正座すると、
- 後方組織への血流が低下
- 神経終末が刺激される
ことで、
ジワっとした圧迫感やしびれ感
が出ることもあります。
■ 「曲がらない」のは壊れているからではない
膝裏が詰まる感覚があると、
「もう曲がらないのでは」と不安になる方も多いです。
しかし実際は、
後方組織が硬くなっている・圧力が逃げない
という状態であることがほとんどです。
適切な評価とアプローチで、可動域が改善するケースは少なくありません。
第6章:正座ができる人・できない人を分ける「決定的な違い」
同じように「変形性膝関節症」と言われても、
正座ができる人と、できない人がいます。
この差は、レントゲンの変形度合いだけでは説明できません。
実際には、次の3つの要因が大きく影響します。
- 構造(荷重と圧力の偏り)
- 組織の柔軟性(関節包・筋・滑膜)
- 神経の反応性(痛みの増幅の有無)
■ 違い①:股関節と足部が「膝の代償」をさせていない
正座ができる人は、膝だけで曲げていません。
股関節の柔らかさ、足部の安定性があるため、
膝に圧縮が一点集中しにくい
のです。
一方、正座ができない人は、
- 股関節が硬い
- 足部が内側に崩れる
- 骨盤が後傾しやすい
といった要素が重なり、膝に代償が集中します。
■ 違い②:関節包・滑膜の“詰まり”があるかどうか
深屈曲で止まる人は、
- 後方関節包の拘縮
- 滑膜肥厚
- 半月板後角の圧迫
が存在することが多いです。
この場合、筋肉を柔らかくするだけでは改善しません。
関節内で起きている圧の問題を見ないと、正座は戻りにくいのです。
■ 違い③:神経の過敏化が進んでいるか
正座ができない人ほど、
「痛みが出そう」という恐怖が強くなりがちです。
痛みが続くと、神経は敏感になります。
- 通常の圧でも痛く感じる
- 少しの突っ張りを危険信号として認識
- 脳が痛みを増幅する
これにより、構造的には曲がる余地があっても、
痛みのブレーキで止まってしまう
ことが起きます。
■ 結論:正座できないのは「膝が終わった」ではない
正座ができない状態は、
壊れた証拠ではなく、圧の偏りと神経反応が強いサイン
であることが多いです。
正しく評価し、膝だけでなく足・股関節・骨盤まで含めて整えることで、
改善が期待できるケースは少なくありません。
第7章:正座を取り戻すために必要なのは「圧の再設計」
ここまで見てきた通り、
変形性膝関節症で正座ができない原因は、
- 内側への圧縮集中
- 膝蓋大腿関節圧の増加
- 後方関節包の拘縮
- 半月板後角へのストレス
- 神経の過敏化
といった複合的な要因です。
だからこそ必要なのは、
「ただ曲げる練習をする」ことではなく、圧のかかり方を変えること
です。
■ ① 股関節から折れる動作へ変える
膝だけを折りたたむのではなく、
- 骨盤を立てる
- 股関節を十分に屈曲させる
- 体幹を安定させる
ことで、膝への一点集中を防ぎます。
■ ② 足元を整える
踵の安定、母趾球での支持、過回内の改善。
足元が整うと、
膝内側への回旋ストレスが減少
します。
■ ③ 関節内の“詰まり”を解放する
後方関節包や滑膜の拘縮がある場合、
適切な評価とアプローチが必要です。
ここを無視して無理に曲げると、痛みは強まります。
■ ④ 神経の過敏性を落ち着かせる
慢性痛では、神経の感作が関与します。
適切な刺激量で段階的に可動域を広げることで、
痛みの反応は徐々に落ち着いていきます。
■ 改善までの現実的な目安
変形性膝関節症では、
- 正座が楽になるまでに2〜3ヶ月
- 痛みが安定するまでに半年程度
かかることも珍しくありません。
ただし、
正しい方向性で進めれば改善は期待できます。
問い合わせ
正座ができない状態は、
「もう曲がらない」という宣告ではありません。
当院では、
- 膝だけでなく足・股関節・骨盤まで含めた総合評価
- 荷重と圧力分布の分析
- 再発しにくい動作設計
- 靴・足元まで含めたサポート
を行っています。
「正座をもう一度したい」
「孫と床に座りたい」
そう思っている方は、一度ご相談ください。


コメント