「階段だけが本当につらい」
「平地は歩けるのに、階段になると膝がズキッとする」
変形性膝関節症の方から非常に多く聞く訴えです。
しかし、この“階段の痛み”は単純に軟骨がすり減っているから起きているわけではありません。
階段動作では、平地歩行とはまったく違う負荷が膝にかかっています。
特に重要なのは、
- 膝関節への圧縮力の増加
- 膝蓋大腿関節への負担
- 体重移動のコントロール難易度の上昇
という3点です。
第1章:なぜ階段では平地の「数倍」膝に負担がかかるのか?
平地歩行では、膝にかかる圧縮力は体重の約2〜3倍と言われます。
しかし階段では、
体重の約4〜6倍
の負荷がかかることが報告されています。
特に下り階段では、膝がブレーキ役を担うため、
- 大腿四頭筋が強く収縮
- 膝蓋骨が大腿骨に押し付けられる
- 内側関節面へ圧縮が集中
という状態になります。
つまり、階段は「ただの段差」ではなく、
膝にとっては高負荷トレーニング動作
なのです。
変形性膝関節症では関節裂隙が狭くなっているため、この高負荷が直接ストレスになります。
その結果、階段でだけ強い痛みが出るのです。
第2章:上りと下りで「痛みのメカニズム」はまったく違う
「階段が痛い」と一言で言っても、
上りで痛い人と、下りで痛い人では原因が異なります。
ここを分けて考えないと、対策を間違えます。
■ 上り階段で痛い場合のメカニズム
上りでは、体を“持ち上げる”動作が必要になります。
このとき主に働くのは、
- 大腿四頭筋(前もも)
- 中殿筋(骨盤安定筋)
- 大臀筋(股関節伸展筋)
です。
しかし変形性膝関節症の方は、
- 股関節が十分に使えていない
- 中殿筋が弱い
- 骨盤が安定しない
という状態が多く見られます。
その結果、
膝だけで体を持ち上げる動作
になります。
このとき膝の内側へ圧縮力が集中し、痛みが出ます。
■ 下り階段で痛い場合のメカニズム
下りはさらに厄介です。
なぜなら下りでは、膝がブレーキ役を担うからです。
体が前方へ落ちる力を制御するため、
- 大腿四頭筋が遠心性収縮(伸ばされながら力を出す)
- 膝蓋骨が強く押し付けられる
- 膝蓋大腿関節圧が急上昇する
という状態になります。
変形性膝関節症では、関節内のスペースが狭いため、
この圧力増加に耐えにくい
のです。
■ 下りが特につらい人の特徴
- 膝が伸び切らない
- 体幹が前に倒れすぎる
- 足裏で踏めず、踵からドスンと落ちる
これらがあると、衝撃はすべて膝へ集まります。
つまり、
階段が痛い=筋力不足
ではありません。
多くの場合は、
股関節と体幹が使えていないことによる膝への過集中
が原因です。
第3章:なぜ「膝の内側」ばかりが痛むのか?本当の構造的理由
変形性膝関節症の多くは、
膝の内側(内側コンパートメント)に痛みが出ます。
レントゲンでも「内側が狭くなっていますね」と言われることが多いでしょう。
しかし重要なのは、
なぜ内側にばかり負担が集中するのか?
という点です。
■ 内側へ荷重が集まる3つの理由
階段動作では、次の3つが同時に起こりやすくなります。
- 足部の過回内(踵が内側へ倒れる)
- 脛骨の内旋(すねの骨が内側へ回る)
- 大腿骨の内旋(太ももが内側へ入る)
この連鎖が起きると、膝はニーイン(膝が内側へ入る)の状態になります。
ニーインが生じると、膝内側には
- 圧縮ストレス
- 剪断(ずれる)ストレス
- 半月板への偏った荷重
が集中します。
■ 階段では「回旋ストレス」が強くなる
平地歩行よりも階段では、
膝の屈曲角度が深くなります。
膝が深く曲がるほど、
- 関節面の接触部位が変化する
- 回旋制御が難しくなる
- 内側半月板への負担が増える
という現象が起きます。
つまり、階段では
圧縮+ねじれ
という、膝にとって最も不利な力の組み合わせが生まれるのです。
■ O脚だけでは説明できない
内側が痛いと「O脚だから」と言われがちですが、
それだけでは不十分です。
実際には、
- 股関節外転筋の弱化
- 骨盤の左右傾斜
- 体幹支持不足
といった要素が加わることで、
階段でのみ強く内側荷重が増幅される
のです。
■ 内側痛は「膝だけ」の問題ではない
膝内側の痛みは、
足 → 膝 → 股関節 → 骨盤 → 体幹
という連鎖の“結果”です。
膝に注射を打っても、湿布を貼っても、
この連鎖が変わらなければ、階段痛は繰り返します。
内側が痛いのは、そこに原因があるからではなく、そこに負担が集まっているからなのです。
第4章:階段痛を強める「滑膜」と「神経」の反応
階段でズキッとくる痛みは、単なる「軟骨の摩耗」では説明しきれません。
実際に痛みを発している主役は、
- 滑膜(関節内を覆う膜)
- 関節包
- 骨膜
- 神経終末
です。
■ 滑膜は非常に“痛みを感じやすい”組織
軟骨自体には神経がありません。
しかし滑膜や関節包には、侵害受容器が豊富に存在します。
階段で強い圧縮がかかると、
- 関節内圧が急上昇
- 滑膜が挟み込まれる
- 滑液の動きが急変する
これらが起こります。
その結果、
鋭い局所痛が発生する
のです。
■ 神経の「過敏化」が痛みを増幅する
長期間膝にストレスがかかっていると、神経は次第に敏感になります。
- 痛み刺激への閾値が低下
- 通常なら痛くない圧でも痛みとして認識
- 脳内での痛み増幅
これを神経の感作といいます。
そのため、階段の一段一段で
必要以上の痛み信号が出る
ようになります。
■ なぜ「動き始め」が特に痛いのか?
静止状態から動きへ移行するとき、
- 関節内圧が急変
- 滑液が移動
- 筋収縮が一気に起こる
という“急激な変化”が起きます。
感作された神経は、この急変に強く反応します。
これが、
階段の一段目でズキッとする理由
です。
■ 炎症だけでは説明できない理由
純粋な炎症であれば、動くほど痛みは悪化します。
しかし実際には、
数段下りると少し楽になる
という人もいます。
これは、
- 関節液循環の改善
- 神経入力の安定
- 筋ポンプ作用
が働くためです。
つまり、階段痛の多くは
構造×神経反応の掛け算
で生じています。
第5章:「かばう動き」が階段痛を固定化し、変形を進める悪循環
階段が痛い人ほど、無意識に“痛みを避ける動き”をします。
しかし、変形性膝関節症ではこの「かばい動作」が、
痛みを減らすどころか、むしろ階段痛を固定化することが非常に多いです。
■ よくある「上り階段」のかばい動作
上りで多いのは次のパターンです。
- 痛い脚を“引き上げるだけ”にして、健側で強く踏み込む
- 膝を内側へ入れたまま、太ももの力で無理やり上がる
- 上体を前に突っ込み、勢いで体を上げる
この動作が続くと、膝では
- 内側圧縮の増加
- 膝蓋大腿関節圧の増加
- 半月板の局所負担
が起こりやすくなります。
さらに、健側ばかりを使うことで、痛い側は
- 支持筋が弱る
- 固有感覚が落ちる
- ますます不安定になる
という悪循環に入ります。
■ よくある「下り階段」のかばい動作
下りで多いのは、次のような“防御反応”です。
- 膝を固めて落ちる(曲げない)
- 踵からドスンと接地して衝撃を受ける
- 怖くて体が前に残り、膝だけでブレーキをかける
下りは本来、体幹・股関節・足首で衝撃を分散させるべき動作です。
しかし膝を固めて下りると、衝撃はすべて膝へ集中します。
結果として、
一段ごとに膝蓋骨が押し付けられ、痛みが増幅
します。
■ かばうほど「膝の内側」へ荷重が寄る
痛い膝を守ろうとして体を傾けると、逆に膝の内側荷重が増えることがあります。
特に起きやすいのが、
- 体幹が痛い側へ倒れる
- 骨盤が内旋し、膝が内側へ入る(ニーイン)
- 足部が内側に崩れる(過回内)
という連鎖です。
この状態では、膝内側は
圧縮+ねじれ
という最も嫌な力を受け続けます。
■ 結論:階段痛は「痛み回避の動き」で育つ
階段痛が長引く方は、
痛い → かばう → 荷重軌道が崩れる → さらに痛い
というループに入っています。
だから必要なのは、
気合いで筋トレすることではなく、“かばわなくてもいい動作設計”を作ること
です。
第6章:足元と靴が「階段痛」を作っているという事実
膝が痛いと、ほとんどの方は膝だけを気にします。
しかし階段痛が強い方ほど、足元の崩れが目立ちます。
膝は「中間関節」です。
上(股関節)と下(足部)からの影響を強く受けます。
下からの入力が乱れていれば、膝がそのストレスを受け止めるしかありません。
■ 階段動作で重要になる「足裏感覚」
階段は平地と違い、
- 段差の高さを正確に把握する
- 接地位置を微調整する
- 体重移動を瞬時に切り替える
という高度な制御が必要です。
このとき鍵になるのが、足裏の感覚受容器(メカノレセプター)です。
しかし、
- 柔らかすぎる靴
- 厚底で感覚が鈍い靴
- サイズが合っていない靴
- 足趾が使えていない状態
では、足裏からの情報が不十分になります。
その結果、
膝が“代わりに”バランスを取ろうとする
ため、階段での膝負担が増大します。
■ 過回内(踵の内倒れ)が内側痛を増幅する
足部が内側へ崩れると、
- 脛骨が内旋
- 大腿骨も内旋
- 膝が内側へ入る(ニーイン)
という連鎖が起こります。
このとき膝の内側には、
圧縮+剪断ストレス
が同時にかかります。
階段ではこのストレスがさらに増幅されるため、痛みが顕著に出ます。
■ 靴は「外部骨格」である
靴は単なる履き物ではありません。
体重を支える「外部骨格」です。
次のような靴は階段痛を悪化させます。
- 踵がぐらつく
- 横幅が広すぎる
- ソールがねじれやすい
- クッションが柔らかすぎる
この状態では、段差に足を置いた瞬間に足部が不安定になり、
膝がブレを修正する役割を強いられます。
■ 足元が整うと、階段は変わる
足部が安定すると、
- 踵から母趾球への荷重移動がスムーズになる
- 脛骨の不要な内旋が減る
- 膝の内側圧縮が減少する
という変化が起きます。
膝を直接触らなくても、階段痛が軽減するケースがあるのはこのためです。
膝は結果であり、足元は原因になりやすい。
この視点を持つことが、階段痛改善の大きな分岐点になります。
第7章:階段痛を本気で変えるために必要なのは「再設計」という視点
ここまで見てきた通り、
変形性膝関節症の階段痛は、単なる軟骨のすり減りだけでは説明できません。
そこには、
- 内側への圧縮ストレス
- 回旋(ねじれ)負荷
- 滑膜・神経の過敏化
- かばい動作による悪循環
- 足元の不安定性
が複雑に絡み合っています。
だからこそ必要なのは、
「鍛える」ことよりも「負担のかかり方を再設計する」こと
です。
■ ① 階段動作を“股関節主導”へ変える
膝だけで体を持ち上げるのではなく、
- 股関節で体を押し上げる
- 骨盤を安定させてから踏み込む
- 体幹を前方へ適切に移動させる
この順序が整うと、膝への集中負荷は大きく減ります。
■ ② 下り階段では「ブレーキ役」を分散させる
下りは膝がブレーキを担いやすい動作です。
しかし、
- 足首で衝撃を吸収する
- 股関節を軽く曲げる
- 体幹を安定させる
ことで、膝の負担は分散できます。
■ ③ 足元を安定させ、荷重軌道を整える
踵の安定、母趾球での接地、ねじれにくい靴。
これらが整うだけで、
膝内側への圧縮は明らかに減少
します。
膝は結果です。
足元が整えば、膝の未来も変わります。
■ ④ 神経の過敏性を落ち着かせる
慢性的な痛みは、神経の感作が関与しています。
適切な刺激量で段階的に負荷をかけることで、
神経の反応は安定していきます。
怖がって動かないことも、無理に動きすぎることも、どちらも極端です。
■ まとめ:階段痛は「壊れた証拠」ではない
階段で痛むからといって、
「もう進行している」「このまま悪くなる」
と決めつける必要はありません。
多くの場合、階段痛は
構造と動作のアンバランスを知らせるサイン
です。
正しく再設計すれば、
「階段が怖い」状態から抜け出すことは可能です。
問い合わせ
変形性膝関節症の階段痛は、
膝だけを見るのではなく、
- 足・膝・股関節・体幹の連鎖評価
- 荷重軌道の分析
- 再発しない動作設計
- 靴・足元の見直し
を行うことで改善が期待できます。
「階段がつらい」
「このまま悪化するのではと不安」
そう感じている方は、一度ご相談ください。
関連読みもの
階段痛だけでなく、変形性膝関節症全体を見直したい方は、こちらも参考にしてください。
階段痛は単独の問題ではなく、膝全体の構造と使い方の結果です。
複数の記事を通して理解を深めることで、改善のヒントがより明確になります。


コメント